いきあたりバッタ
むかしむかし、あるところに
≪いきあたりバッタ≫というバッタが
気ままに暮らしておりました。
秋は ≪思い月≫の下で酒を飲み
冬は ≪なり雪≫のなかで遊びました。
ある春の日、ふと気がつくと胸のところに
小さなシミがついていました。
気にしないようにしていましたが
夏になるともっともっと大きくなっていました。
洗濯しても 取れません。
仕方なく病院に行くとそれは
≪苦シミ≫と≪哀シミ≫だと云われました。
今の所、治す薬はないとも・・・。
ひとりしょんぼりしていると そこへ
極楽トンボがやってきて
『ほら元気だして!あそこの柿を食べると楽になるよ!』
と、いいました。
いきあたりバッタは 急いでその柿を食べました。
でも シミは 消えません! 『どうしてだろう?』
柿の木の名札を見ると そこには≪も柿≫と≪あ柿≫
と 書いてあります。
シミは どんどん濃くなるばかり・・・
そこに 真心トンボさんが やって来ました。
うつむいている いきあたりバッタに いいました。
『そのシミを なくしたいなら あの崖を 登りなさい!』
トンボの指差すほうを見ると険しい崖がありました。
とても 登れそうにありません。
でもたくさんの虫たちが 崖を登っておりました。
≪命崖≫という 崖でした。
いきあたりバッタも登り始めました。
何度もずり落ちそうになりました。
苦しくてつらくて 何度もやめようと思いました。
でも そのたびに 真心トンボの声がよみがえります。
洋服はぼろぼろに、いっぱいすり傷もできたけど
やっとてっぺんに着きました。
立ち上がってシミを見ると すっかり消えていました。
いきあたりバッタさんは それから
≪がんバッタ≫さんと呼ばれるようになりました。
(おわり)
関連記事